#443 和の心(2)

 7月も今日で終わり、明日から8月が始まります。ここ数日は台風のせいで、すっきりしない天気が続いていますが、明日からは夏らしい晴天が予想されています。また酷暑がしばらく続くようです。熱中症や新コロには充分な注意が必要です。
 さて前回の「和の心」の続きになります。ストークス氏は続けて語りかけています。
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『なぜ欧米人にとって、日本は理解しにくいのか』
 日本は先の大戦に敗れて、アメリカ軍による占領を受けるまで、他民族や異文化による占領、支配を蒙(こうむ)ることがなかった。
 日本はいつの時代であれ、長い歴史の中で異文化を上手に取り入れ、日本に適するように、きわめて独自なものに作り替えて、日本文化として熟成させてきた。
 欧米人にとって、日本人の「心」はあまりにも異質であるために、容易に理解することができない。
 日本民族は異なるものを、二律背反的な対立構造でとらえなかった。大きく「和の心」をもって共存させ、全体の調和を保つことによって、独自の文化を織りなしてきた。
 西洋文明は対立構造の上に、成り立ってきた。つねに白黒をはっきりさせ、神と悪魔の戦いのような世界観によって、築かれてきた。
 イスラム文明も同様に、アッラーか、悪魔(サタン)かという二者択一を迫る。欧米人の思考は、二律背反なのだ。それに対して、日本人はできるだけ対立を避けようするから、欧米人にとって曖昧(ファジー)だ。
 たまに、日本人も「白黒をはっきりさせましょう」ということがあるが、欧米人はつねに、相手にイエスかノーか、二者択一で答えることを、求める。
 日本語は最後まで聞かないと、いったい肯定しているのか、否定しているのか、分からないことが多い。肯定している意見を言っているのかと思ったら、最後に「ということは、ない」とつけ加える。
 土壇場になって、肯定と否定が逆転するなど、英語などのヨーロッパ諸語では、ありえない。それでも、最後に肯定か、否定が明確にされればよいほうで、日本語では、しばしば最後まで話を聞いても、いったい、肯定なのか、否定なのか、煙に巻くような話し方をすることもある。
 欧米人はそれを不誠実だ、誤魔化そうとしていると、受け取ってしまう。そこで、日本人は狡(ずる)いとか、信用できないと言って、批判する。
 聖書の世界に生きる欧米人は、「神か、悪魔か」「天使か、悪魔か」という極端な二者択一を迫られるなかを生きてきた。もちろん、自分の側が神か、天使だと思い込んでいるから、対立する相手を「悪魔」とみなして撃退するように、攻撃する。
 論理的に説明がつかずに論破されると、自分が悪魔になってしまうから、必死だ。神はつねに勝利し、天使は「ウソをつかない」原則があるから、躍起になって、ディベートする。
 それに対して、日本人は禅問答のようだ。「善でもあり、悪でもある」と、一方が100パーセント正しく、他方が100パーセント間違っているという極論を避ける。もちろん、これは敵をつくらない、よい方法でもある。
 「ファジー」理論という概念も、ゼロか一(いち)か、オンかオフか、イエスかノーかという二者択一ではなく、「不明瞭」、つまり「どちらでもない」「分からない」とい第三の選択肢をもとにしている。欧米人がこうした思考訓練を始めたのは、二者択一が対立を生み、戦争をも誘発してきたという、過去に対する反省があろう。
 そのうえ、日本人が「和」を重んじるために、寡黙であることも、欧米人には「狡いから、愚かだから」とか、「はじめから主張に怪しげな根拠しかない」「口を開く前から言い負かされているために、物を言わないのだ」と受け取られてしまう。中国人やインド人やアラブの人々も真っ当な人なら饒舌(じょうぜつ)でなければならない。
 それと反対に、日本ではお喋りな男は、無教養であるとか、軽々しいとか、野卑だと思われて、見下される。日本人の場合は、外の世界の人々よりも、もっと洗練されていて、お互いに相手を察し合う、「和の文化」だからだ。
 日本には、「以心伝心」とか、「空気を読む」という方法がある。はじめから、同じ「心」を分かち合っているから、できることだ。自己を主張するのではなく、相手の立場に立って、相手の思いを「察する」のだ。譲り合いは、日本人にとって人間関係の基本である。きわめて日本的なものだ。
(ヘンリー・S・ストークス:
   「英国人記者が見た世界に比類なき日本文化 祥伝社新書 より抜粋」)
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 ストークス氏は英国人記者として50年以上も日本に滞在し、日本と諸外国を行き来しながら日本と日本人を客観的に見つめてきた人物です。彼の言葉には説得力があり、我々日本人が気づいていなかった言動を「他者の観点」から鋭く追及しています。新しい「日本人論」、「日本文化論」として彼の著書を読めば今まで見えてこなかった「日本」の姿が見えてきます。日本論・日本人論に興味がある方は彼の著書をぜひお読みください。

2022年07月31日