#196 一つの時代の終わり

 昨日は多くのテレビ局で安室奈美恵さんのラストライブのニュースを報道していました。彼女は1990年代から現在まで日本の音楽界をリードしてきた一人です。昨日の具体的なライブの内容は報道管制が敷かれていますので、明日にならないと詳細は分からないそうですが、90年代の音楽界だけでなく流行や彼女の言動など様々な影響をこの国にもたらした人物です。彼女のファンのことを「アムラー」という言葉で表現したこともあります。この言葉が流行った当時、私はオーストラリアにいましたので、この言葉を初めて聞いたときに新しい携帯電話(セルラー・フォン)が発売されたものと思っていました(笑)。現代はすべてネットで情報が入手できますが、1995年当時はウィンドウズ95が発売された時代で、インターネットを通して今ほど情報が簡単に手に入る時代ではありませんでした。特に芸能記事はそれほどネットで拡散されていない時代でしたので、キンキ・キッズという言葉も関西地方に住む子どものことかと思っていたほどです。この言葉の意味を後で聞いて赤面しました(笑)。「歌は世につれ世は歌につれ」とよく言われますが、確かにそれぞれの世代にはそれぞれのアイドルやスターがいて、彼らとともに一緒に過ごした時代を共有します。その人物の引退とともに一つの時代が終わったと感じます。安室さんはその最たるものではないでしょうか。特に30代から40代の人にとって彼女の引退は感慨深いものがあるでしょう。
 もうひとつ昭和から平成の時代の終わりを示すニュースが先日ありました。それは毎年福岡市の大濠公園で開催されていた「西日本大濠花火大会」が今年で終了したことです。今年の花火大会の開催日には大会終了の件について全く報道されていませんでしたが、先日の主催者である西日本新聞紙上で、花火大会終了のあいさつが掲載されましたので、それを引用します。(https://www.nishinippon.co.jp/nlp/event/hanabi/)

-------------------------
「西日本大濠花火大会」終了のごあいさつ 
 福岡の夏の風物詩として親しまれる弊社主催の「西日本大濠花火大会」は、今年も8月1日夜に行い、多くの市民の皆さまに夜空を飾る大輪の花をお楽しみいただくことができました。誠にありがとうございました。
 戦後まもなく福岡市中央区の福岡県営大濠公園を会場に始めた当大会は、数度の中断・休止を経て今回で56回を数えました。
 半世紀を超す歴史を刻む間に、福岡市は飛躍的な発展を遂げ、大濠公園を取り巻く環境も激変しました。観覧者の増加や急速な周辺開発に伴って、安全な大会運営は大きな曲がり角に来ています。数年来、主催者として観覧者ならびに周辺の安全確保の議論を重ねてまいりましたが、「2019年以降は実施が難しい」と判断するに至りました。楽しみにされる方が多数おられることは重々承知しておりますが、安全確保の観点から断腸の思いで、ここに大会の終了をお知らせいたします。
 長年にわたり、大会運営にご協力・ご支援いただいた関係者、大会を愛してくださった皆さまに心より感謝を申し上げます。
 「西日本大濠花火大会」は1949年、戦没者の鎮魂と戦後復興を目的に始まりました。まだ戦争が色濃く影を落としていた時期です。翌50年の大会開催を報じる西日本新聞紙面は、緊迫する朝鮮戦争の状況も掲載しています。大会は文字通り、平和と豊かな暮らしを希求する戦後日本とともに歩んできました。
 67~78年の間、大会は中断しましたが、福岡市制90年・大濠公園開園50年の79年に復活して以降、大濠公園改修工事(88年)の年を除く毎年開催し、福岡の夏に欠かせない行事として定着しました。多くの方々に愛され、楽しんでいただく大会を主催できたことは、私たちの喜びであり、誇りでもありました。
 大会運営は順調な年ばかりではありませんでした。台風接近でやむなく順延した年もありました。天候不順のため、朝から夕方まで開催の有無を尋ねる電話が鳴りやまなかった年もありました。上空の風が強くて花火の形が乱れた年、逆に無風で花火が煙に包まれた年もありました。花火の燃えさしが近隣の施設や住宅に飛散し、きついお叱りを受けたこともあります。毎回課題に悩みながらも、大会を待ち望んでくださる皆さまを思う一心で改善を図り、これまでやり通してまいりました。
 市街地の大濠公園で催す大会は、国内で他に例のない「全方向から観覧できる都市の花火大会」でもあります。福岡市の成長や交通網の整備も相まって、会場および周辺に集まる観覧者数は毎年40万人を優に超える規模に膨れ上がりました。一人でも多くの皆さまが観覧できるようにと願い、安全対策に努める福岡県警察や福岡市消防局の指導を仰ぎながら細心の注意を払って大会運営に携わってきました。
 それでも、主催者として「安全・安心」の確保に限界もあります。今年は過去最多の警備員、誘導員を投入して場内整理を行いました。出入り口の特設監視カメラも駆使し、危険回避に努めました。混雑具合に応じて細かく入場規制も実施しました。しかし一歩間違えば雑踏事故につながりかねない観覧者の滞留が、随所で発生しました。
 規制に反して入場しようとする方、出入り口以外から会場に侵入を試み、負傷して病院に搬送された方もいました。園児や児童が大切に育てていたヒマワリ花壇が観覧者に踏み荒らされるという痛恨の出来事は、会場の収容人員をはるかに超える観覧希望者が殺到している現状の一端だったとも言えます。周辺道路に人があふれ、多数の座り込み観覧が生じていることもパトカーや消防車の緊急出動を妨げかねず、街の安全を脅かしています。
 今夏の猛暑も混雑に拍車をかけました。多くの観覧者が開始時刻の午後8時の直前まで公園外で待機し、開始と同時に一気に入場する現象が起きました。誘導員が整理に努めましたが、一時は制御能力を超え、身の危険を覚えるほどの事態に陥ったことも事実です。
 幸いにもこれまで、福岡県警察、福岡市消防局、同市交通局をはじめとする運営関係者の努力、観覧者の協力を得て大事故もなく大会を続けることができました。私たちも「何としても大会を維持したい」と、踏ん張ってまいりました。しかし、昨今の現場の混雑ぶりや事故を懸念する数々の指摘、安全対策の限界といった事情を考え合わせると、これ以上の継続は難しいと結論づけざるを得ませんでした。
 「西日本大濠花火大会」を愛し、支えてくださった皆さまありがとうございました。皆さまの思いを重く受け止め、私たちはこれからも街ににぎわいをもたらす催しに取り組んでまいります。変わらぬご支援をよろしくお願いいたします。
西日本新聞社 代表取締役社長
柴田 建哉
------------------------

 福岡市民や毎年花火大会を楽しみにしていた多くの人々にとって晴天の霹靂だったことでしょう。いつまでも続けてもらいたい夏の風物詩でした。しかし上記の「終了あいさつ」にありますように、来場者数が限度を超えており、また観客のマナーの悪さや風紀を乱すことを懸念した主催者側の憂慮も充分理解できます。それほどまでに福岡市が大きくなりすぎたと言えるのではないでしょうか。3年前までおよそ40年ほど暮らした福岡市ですが、人口が増えるにつれて福岡の古き良き時代が消えてしまい、大都会にありがちな慌ただしい街へと変化したように思います。そこには博多人の粋な生活はなく、雑多なせわしい日常が存在するのみです。時代が変化するにつれて、良くも悪くも様々なものが変わっていきます。安室奈美恵引退と西日本大濠花火大会終了はその象徴のように思えます。

2018年09月16日