#425 領土拡大の心理

 今日は朝から快晴の一日です。気象庁は本日福岡県の桜が満開したと報じました。コロナ禍で桜の下での宴会はできませんが、それでも花を愛でる気持ちは誰でも抑えられません。近くの公園や道端に咲いている桜花を目で楽しみたいものです。このように日本では戦火の音も聞こえずに平和な日々を過ごすことができますが、ヨーロッパでは連日のロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けて各国の首脳が集まり、その対策に追われています。
 一方なぜロシアは今回ウクライナに侵攻したのでしょうか。その理由の1つにロシアが抱えている心理状態にあるようです。次の記事はロシアや中国など自国の周囲が他国に囲まれている国の心理状態をうまく説明しています。かなりの長文になりますが、ご一読ください。
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『「ウクライナ戦争」が起こる知られざる深い事情
   国際政治記者がストーリーでわかりやすく解説』
 ロシアによるウクライナへの侵攻は世界を揺るがし、ガソリンや食べ物の価格を通じて日本にも大きな影響をもたらしている。ウクライナのクリミア半島のロシアによる併合も現地で取材してきた元モスクワ特派員の田中孝幸氏が上梓した『13歳からの地政学』は、高校生の大樹と中学生の杏の兄妹と、年齢不詳の古物商「カイゾク」との会話で地政学について学べる1冊だ。今回は、ウクライナの戦争のような事態がなぜ起こるのか、本書から一部抜粋のうえ再編集して紹介する。
<なぜ領土を求め続けるのか>
 大樹:素朴な疑問なのですが、ロシアも中国もとても大きな国なのに、なぜそんなところの領土にこだわるのでしょうか? 国同士の境目は、管理ができないくらい寒くて、人もいないんですよね? なぜそんな土地を取り合うのでしょうか?
 カイゾク:ふむ、ちょっとくらいの領土なんて、こだわらなくてもいいんじゃないかということだな。しかし、実際にはそういう考えにはならない。国が大きければその分、さらに大きくしたいと思うものだ
 そこでカイゾクは、1本足の地球儀を少しずらして、デスクの真ん中に白い紙を1枚置いた。そしてそこに赤のサインペンで小さな丸を描いてから、2人に聞いた。
 カイゾク:仮にこの赤い丸を自分の領土としよう。周りはほかの国に囲まれている。そして自分の領土を守るために、周りの国も攻め取って自分のものにする
 カイゾクは赤い丸の外側に、大きな赤い丸を描いた。
 カイゾク:こうすれば、中の丸い部分は安全になる。でも、新たに取った部分は外に面しているからまだ安全ではない。せっかく大変な苦労をして、自分の国のたくさんの兵士の命を犠牲にして攻め取った部分だろうから、なんとしても取られたくないと思うのは自然だ。さあ、どうすればいいだろうか?
 大樹:やっぱりさらに外側の国も自分のものにしなければいけない、と思うのでしょうか?
 カイゾク:そうだな。自分を守るために、それに今までの苦労を無駄にしないために、さらに周りの土地をどんどん取っていこうと思うようになる。自分のものにできなくても、自分の言いなりになる子分にしようと思うようになる。しまいには、この紙全体を真っ赤に変えようとするだろう
 カイゾクはさらに大きな赤い丸を次々に描き足した。
 大樹:それって北方領土も同じでしょうか? だからロシアは、あんな小さな島なのに、日本に還そうとしないんですか?
 カイゾク:ああ、それもまったく同じだ
<なぜ隣同士仲良くできないのか?>
 杏:ちょっと待ってよ! 取るとか攻めるとかの前に、周りの国と仲良くすればいいんじゃないの? 隣同士は仲良くしたほうがいいんでしょう?
 杏は赤い丸が描かれた紙を手でたたいた。
 カイゾク:杏さん、その通りだ。だがこちらが仲良くしようとしても、相手がこちらと仲良くしたくないかもしれない、相手がこの土地を取りたいと思っているかもしれないと疑心暗鬼になるわけだ。陸続きになっているとほかの国から攻められやすいので、なおさらだ
 カイゾクは、紙の右上の隅に黒ペンで小さな丸を描いた。
 カイゾク:しかし、この黒い丸の国の人々には、このどんどん大きくなる赤い丸はどのように見えるだろうか?
 大樹:恐ろしいです。自分のところまで来るんじゃないかって
 カイゾク:そうだろう。本人は自分を守るためだけにやっているつもりでも、周りの国からは攻撃的で危険なやつだと見られるようになる。ロシアがクリミア半島を奪ったり、中国が南シナ海の島々を取ろうとしたりしている動きには、こういう心理が働いている
 杏:守るためにずっと戦ってなきゃいけないなんて悲しいね。そういうところとはどうしたら仲良くなれるのかな?
 カイゾク:それはお互い信用する関係、つまり信頼関係を築くことだ。だが信頼関係を持ち続けることは案外難しい。例えば隣同士の国でちょっとでも戦いが起きて人が死ぬと、信頼関係はかなりのダメージを受ける。普通、国は攻められればそれに抵抗して、争いになるものだ。すると、攻めたほうは『やっぱりやつらは敵だったんだ』と思って、その争いはひどくなる。たとえ隣の国が、今のままの状態で平和を保とうとしていても、そういう記憶が人々の中に残っている限り、その後も争いが起きやすくなる
 杏:平和な世界って、口で言うのは簡単だけど結構難しいのね
 カイゾク:その通りだ。中国とソ連、どちらも第2次大戦で侵略されて、1000万人をはるかに超える死者を出した。死者数で言うと、日本の4倍以上だ。だから、ほかの国をそんなに信頼していない。そして自分の安全は自分で守ろうとする。そのために、周りの国とうまくやっていけない傾向がある。こういう外国に向かって強く出る国は内部に大きな問題を抱えていて、それから人々の関心をそらそうとしていることもある
 杏:内部の問題?
 カイゾク:そうだ。それは大陸にある陸続きの大きな国の、共通の問題でもある
<国民の「反戦」声が届かない理由>
 杏:でも私たち普通の人が、侵攻をやめて、とか思っていてもどうしようもないのかな? 国には逆らえないから
 大樹:いや、選挙がありますよね? そういう国民の声を合法的に政府に届けるには、選挙でそういうことをしない政治家を選べばいいんじゃないでしょうか
 カイゾク:大樹くん、その通りだよ。だが中国のリーダーを選ぶ方法は、日本の選挙とは違う。基本的に、国民が投票でリーダーを選んでいないんだよ
 杏:えっ、そうなの? 日本はよくやってるよね、選挙。良さそうだなと思う人に投票して、その人がやっぱりあんまり良くなかったら、次の選挙の時は投票しなければいいんでしょ?
 カイゾク:ああ、日本はそうだな。杏さんが言った、国民が選挙で代表者を選ぶ仕組みが、民主主義というものだ。自分が選んだ政府であれば、納得感があるだろう。では民主主義でない国では、そのリーダーに納得できない場合、国民はどうするだろうか?
 大樹:えっと、たしかフランス革命では、王様を殺して、民主主義になったんですよね
 カイゾク:そう。王様も王妃もその取り巻きの貴族たちもギロチンで殺された。つまり、リーダーを暴力で物理的に消したということだ。選挙がある国では、負けるということは権力を失うということだけだが、選挙のない国では、負けるのは往々にして死を意味する。民主主義の利点は、暴動やギロチンがなくてもリーダーを代えられるということにつきる
 大樹:じゃあ、中国はその仕組みがないので、下手をすると国民に殺されると、えらい人たちは思っているのでしょうか?
 カイゾク:それは間違いない。だから生き延びるために必死だ
 杏:じゃあその民主主義にすればいいじゃない、中国もさ
 カイゾク:しかし、実は世界には民主主義をちゃんとできている国というのは、そんなに多くない。そして必ずしも民主主義でなくても、国民を納得させることはできる。大樹くん、毛沢東はどうやって選ばれたリーダーだい?
 大樹:今の中国を作った人だよ。どうやって選ばれたかは、えっと、建国の父だから、初めからリーダーというか
 カイゾク:ふむ、毛沢東は、戦争を勝ち抜いて国を立ち上げたリーダーだ。その圧倒的な実績で、トップであることを国民に納得させたんだな
 杏:ふぅん、その人の後は?
 大樹:鄧小平ですよね?
 カイゾク:そうだ。鄧小平は政治家だが、戦争で大きな功績をあげた軍人でもあった。そして鄧小平はその後のトップに江沢民、胡錦濤の2人を指名した。この2人はこれも戦争の実績のあった鄧小平から選ばれたということで、国民を納得させてきた。それに、鄧小平から後の時代に国はどんどん豊かになっていった
 杏:カリスマってやつだね
 カイゾク:戦争で勝てば、国民にリーダーであることを納得させやすくなるわけだ。最近でも、小さな戦争で勝って、カリスマを得ようとしているリーダーたちがいる。ロシアのプーチン大統領は、ウクライナのクリミア半島を奪って、自分の人気を急上昇させた。中国のリーダーが台湾を攻め取ろうとしているのも、同じ理由だとわしは思っている
 杏:そんな理由で戦争するなんて、なんかひどいね
 カイゾク:そうだな。そして、中国で近年リーダーになった人は、戦争に勝ち抜いたわけでもないし、そういうリーダーたちから直接選ばれたわけではない。国民にとってなぜトップとして認めないといけないのか、それまでのリーダーたちよりもわかりづらい人だ
<記者に銃を向ける国>
 カイゾク:それに民主主義をうたっている国でも、選挙でインチキをやる国もある。政府に反対する人を殺したり、牢屋に入れたりして、自分に都合のいいような結果にするんだ。例えばロシアでは、選挙の前に反対派をいろんな手を使っておさえこんで、立候補できなくするというケースが多く聞かれる
 杏:そんなことしたら選挙の意味ないじゃん!
 カイゾク:その通りだ。だが実際、そうやって高い地位にとどまり続けているリーダーは世界では結構多い
 大樹:でもそんな方法で選ばれた人を、周りの国はリーダーとして認められるのでしょうか? 国と国が仲良くするには、信頼関係が大事なのに
 カイゾク:そう、そういうリーダーたちもまさにその不安を感じているだろう。だから、都合の悪いことはできるだけ世界の目から隠そうとする。外部に知られなければ、どんな悪いことをしても世界の国々から厳しい目で見られたりしないからだ
 大樹:あ、それでさっき言っていた情報管理が必要になるわけですね
 カイゾク:ああ、一般市民が、国がひどい状態であることを世界に伝えるのを防ぐために、SNSとかインターネットを自由に使えないように厳しく制限する。そして情報管理のやり方には、もう1つ、ジャーナリストたちにあまり仕事をさせないようにすることもある
 杏:ジャーナリストって新聞とかテレビとか?
 カイゾク:そうだ。こういう場合、国民の不満を押しつぶしていることなど、都合の悪いことを世界中に伝えようとする記者たちは、政府の敵になる。そういう国々では、常に記者の通話は盗み聞きされるし、ひどい時は牢屋に入れられたり殺されたりする
 大樹:そんなこと、本当にできるんですか?
 カイゾク:これは実際に起こっていることだ。でも、いくら徹底的に情報を管理しても、ひどいことを隠し続けるのには限界がある。全部ではなくても、一部はばれることになる。そうなると、隠そうとしていること自体も批判されるようになる。いずれにしても、記者に銃を向けるような国は、それよりずっと前に自分の国民に銃を向けているわけだ。そして、記者を殺すような国に未来はない、とわしは思っている
(東洋経済ON LINE https://toyokeizai.net/articles/-/540181)
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 上記の文に出てくる「杏」の発想には多くの日本人が、特に国会議員が共感するのではないでしょうか。しかし世界には私たち全く違う考え方をする集団がいます。この国の平和を維持するために今強力な外交が必要となります。ロシアは日本政府の経済対策を受けて北方領土で軍事演習を行っています。また驚愕すべき情報としてアイヌ民族に対してロシア人と同じ祖先を共有し、アイヌ民族を保護する姿勢を打ち出しています。これはウクライナ侵攻前の状況に酷似しています。北海道占領を以前から唱えているロシアの動きを注視する必要があります。
 9条があれば平和を守れると公言する政党がいますが、「敵が攻めてきたら何もせずに両手を上げて降伏すべきだ」という考えは日本でしか通用しません。この国の平和を保つためには何が必要か、一人ひとりが(特に国会議員が)考える時が来ています。

2022年03月27日