#137 カズオ・イシグロの思い出

 昨日の昼から雨が降り続いており、今朝から10月には珍しい本降りの雨となっています。傍の国道を走る車の轍の音で雨の強さが分かります。さて今年のノーベル文学賞を受賞した長崎生まれのイギリス国籍を持つカズオ・イシグロ氏ですが、彼の名前は私がオーストラリアのシドニーで暮らしていた20年以上も前に聞いたことがあります。
 当時私はシドニーの大学院に入学する半年ほど前にシドニー大学付属の英語学校に通っていました。この英語学校は大学生・大学院生になるために英語力を磨くためだけではなく、大学での授業の受け方やプレゼンテーションの仕方、レポートの書き方などを教えてくれました。そこで出会った講師の一人、ジュディス・ウィーリーからイシグロ氏の話を伺いました。彼女はイシグロ氏の小説はとても面白く、ためになるのでぜひ読んだほうが良い、とアドバイスしてくれました。早速シドニー市内の書店に行き、彼の本を1冊購入しましたが、その後本の頁を開くこともせず、そのままになっています。
 その本をまだ捨てずに書棚に保管していると思い、さっそく探してみました。見つかりました。本のタイトルがKazuo Ishiguro "The Unconsoled"となっています。発行年が1995年とありますので、22年前に購入しており、ペーパーバックの本が歳月の経過により酸化し、頁の端々が赤茶けた色に変ってしまいました。今となっては遅すぎますが、あの時ジュディスの助言通りに彼の本を一読していれば、彼の読者になっていたかも知れず、彼のノーベル賞受賞後に彼についての自慢話ができたかもしれません(笑)。私たちはあらゆるものに対してどこでどのような縁があるか分かりません。人の助言には素直に従うものです。読書の秋に相応しく、少し時間を見つけてシドニーでの思い出に浸りながら、この本の頁を少しずつ進めていこうと思います。

2017年10月15日