#139 鈴木秀子さんのこと

 先週末に続き今週末も台風に見舞われました。2週連続の台風襲来になります。ここ大牟田はそれほど大きな被害はありませんでしたが、先週の台風で各地で大きな被害が出ましたので、被災者の方々に心よりお見舞い申し上げます。地震にしても台風にしても、一度発生しますと大きな被害が生じますので、日頃からの防災意識が大切になります。
 さて今日のブログのタイトルにあります鈴木秀子さんをご存知でしょうか。鈴木さんの著者紹介より引用抜粋させていただきます。

鈴木秀子:聖心会シスター。国際コミュニオン学会名誉会長。長年にわたり、全国及び海外で講演活動を行い、特に、死が近づく人や、その関係者からの相談が多い。

 私が鈴木さんを知るようになったきっかけははっきりと覚えていませんが、おそらく故渡辺和子さんの著書の中であったような気がします。シスター渡辺と同様に、シスター鈴木は珠玉の名文を書かれる方でもあり、様々な本から引用して素晴らしい内容を読者に紹介されます。その内容は万人を首肯させるものがあります。本日はシスター鈴木の最近出版された本の中の名文1つを紹介したいと思います。
-----------------------------------
 『自分の感情を良きものに変える』(「今、目の前のことに心を込めなさい」海竜社より)
 あるアメリカ人がこういう話をしてくれました。その人はもう年配の男性ですが、これは9歳の時の思い出です。
 小さい時、お父さんがサーカスに連れて行ってくれました。家はそんなにお金持ちではありませんでした。お父さんが、今日はサーカスに連れて行ってあげるというので、9歳の男の子はもううれしくてたまらなかったのです。
 会場につくと、切符を買う長い列ができていました。自分たちはその列のいちばん最後になりました。すぐ前には、十人家族が並んでいました。それはお父さん、お母さんと八人の子どもたちの、とても貧しそうな家族でした。着ているものは質素でしたが、きれいに洗濯してありました。その家族は貧しいながらも、きちんとした生活をしている人たちだと子ども心にも思いました。
 「サーカスってところはね、ライオンがいたり、象がいたりするんだよ。そうして象が鼻の先で輪を回したり、いろんな動物がいろんなことをするんだよ」とお父さんは得意になって話していました。
 子供たちは二人ずつ四列に並んで、うれしそうに聞いていました。母親の方は、はじめて家族全員でサーカスを見ることができた、そして夫がそういう稼ぎをして連れてくれたということが、誇らしげに見えました。
 いよいよ切符を買う順番が近づいてきました。その家族が買えば、次は自分たちです。9歳の男の子は、とても待ちきれない思いでいました、もうサーカスのざわめきが外まで響いています。動物たちの鳴き声も聞こえてきます。
 十人家族のお父さんが、切符売り場のところに立ちました。そして大きな声でほんとに誇らしげに、「大人二人、子供八人」と言いました。それは後ろに並んでいる9歳の男の子のところまで聞こえてきました。お母さんもうれしそうに傍に寄り添い、子供たちもわくわくしている様子でした。
 ところが突然、お父さんはさっきまでの威勢の良さがなくなって、うなだれてしまったのです。お母さんは何事が起ったかと思ってお父さんを見守り、子どもたちはなんか様子がおかしいということで、しょんぼりとし始めました。
 そのお父さんはしばらく黙って地面を見ていました。しかし、今度はまた勇気を出して、切符売り場のところで顔をつけ、まるで切符売り場の窓の中を覗くようにして、「大人二枚に、子ども八枚でいくらですか」と聞きました。その声は他の人には聞こえなかったのですが、お父さんはその窓口から後ずさりすると、肩を落としてうなだれて下を向いてしまいました。あれほど誇らしげに見えたその男の人が、小さく見えました。
 突然9歳の男の子と手を繋いでいたお父さんが、四列に並んでいた子どもたちの前を通り越して、うなだれているお父さんの方を叩きました。
 「今ここに、百ドル札が落ちていますよ。あなた、落としたんじゃありませんか」と言いました。しょげきっていたお父さんは、持っているはずはなかったのですが、思わず辺りを見渡しました。
 その間に、9歳の子どものお父さんは百ドル札を地面から拾って、そのお父さんに渡しました。「あなたのポケットから落ちるのを私は確かに見ました。ここには他に人がいません。あなたが落としたんです。きっと気づかないうちに百ドル札があって、それが落ちたに違いありませんよ。」と言ったのです。
 そのお父さんはただ黙って、手に置いてくれたその百ドル札を見つめました。そして、相手の顔をじっと見て深く頷き、涙をぽろぽろ流して、「ありがとうございます」と言いました。
 そのお父さんは紙幣を持って「大人二枚、子ども八枚」と誇らしげな声で切符を買いました。「さあ、みんなサーカスだぞ」と言って、子どもたちを先に中に入れ、振り返って自分たちに深く頭を下げました。そして夫婦はサーカスの中へ消えていきました。
 9歳の子の父親は子供の手を取って、「さあ、うちに帰ろう」と言いました。そしてお父さんと男の子はそのまま家に帰ってきたのです。
 9歳の男の子は何も言いませんでした。でも大人になった今、思い出してみると、自分はあのとき、人生はどのように生きるのかということを学んだといいます。自分の中に起ってくるいろいろな感情や考えを、良いものにしていくにはどうしたらいいのか。サーカスを見る以上の素晴らしい宝を、あの瞬間に自分は父からもらいました、という話をしていました。
 これは「自分で自分を変えていく、そうすると周囲も変わってくる」という、まさにその瞬間を体験した話でした。
-------------------------------

 まさしく名文です。子供は親の背中を見て育ちます。若い世代は大人の姿を見て学びます。煽り運転の例を挙げるまでもなく、昨今のすさんだ世情を反映すような事件が多発しています。人の心がすさんでいる証拠です。ネットでも匿名性を利用して誹謗中傷するものが数多く見られます。まず自らを正して誠実に世の中に向き合うような生き方が必要とされる今日この頃です。

2017年10月29日