#203 老子の遺言(2)

 雨の多い1週間でしたが、一雨ごとに秋らしくなっているようです。夜の虫の合唱は夜間の気温が下がっているせいか、日ごとにその声が小さくなっているようです。冬を迎える前に死に絶えてしまう悲しみの声でしょうか、昨晩はか細い声で鳴いていました。私たちもそろそろ冬支度に入る頃となったようです。
 さて今回のブログも松原老子の珠玉の言葉をお届けします。101歳まで生きて来られた老子の深い言葉を味わって頂きたいと思います。

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「人は順調なときほど墜落の種を蒔き、
    逆境のときにこそ進歩の種が蒔けるのです。」

 あなたがたが今、逆境におかれているとしたら、とても幸福なことなのだと感じていただきたい。なぜなら、それは、あなた自身の人間育成のひとつのチャンスなのですから。
 逆境の中では自分の本意ではないこと、つらくて苦しいことが待ち構えているかもしれません。ときにはそんな人生を恨めしく思うこともあるでしょう。
 でも101年も生きた私が思うのは、いい人生を送るためのカギは逆境にあるということです。逆境をどう生き抜くかで、その後の人生は決まると言ってもいいでしょう。歴史を振り返ってみると本当に伸びている人は逆境に抗うことはなく、むしろ従いながら生きている。そして、もがき苦しみながらも、そこで何かを掴んでいく。努力をして進歩の種を蒔いているのです。
 逆に、人生が順調なときほど人間は堕落の種を蒔いていると思ったほうがいい。やることなすことすべてがうまくいっているときこそ気をつけなければなりません。知らぬ間に傲慢になり、忙しいと、とかく挨拶もろくにできなくなってくる。相手を思いやることもできなくなるから次第に嫌われかねません。つまりは調子にのるなと言いたいのです。調子にのると元も子もなくしてしまう。災いが出てくるわけです。
 もう一つ申し上げると、努力もせずに掴み取った成功は一瞬のことでしかありません。努力することを知らなければ、次第に怠惰心顔を出し、その成功をも消し去ってしまうでしょう。怠惰心というのは本当にクズだと思います。一時の成功に執着し、何もしないままでは生きる意味がありません。
 ですから嫌なこと、気に食わないことがあっても、それはもう浮世の務めだと割り切って従いましょう。その間に未来の自分への勉強をすればいい。逆境を心して乗り切ることで、人間は本当に伸びることができると思います。

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 松原老子の仰るとおり、70年代に高度経済成長で図に乗ったこの国の多くの企業が、先達者のように堅実に働くことを忘れて土地の売買や株式の売買で巨額の富を手にしました。しかしバブル経済が終了するや否や巨額の負債を抱え、多くの企業が倒産の憂き目に遭いました。その影響は今でも続いています。
 またこのことは個人においても言えることです。特に子どもの勉強は忍耐の連続です。「わからない。」「できない。」から逃げることは簡単ですが、それからは何も学ばないでしょう。勉強を通して「我慢すること」「忍耐」を学ぶことで道は開けます。
 また大人は自分の仕事に邁進することで、必要とされる技能を身につけ、それを元に自分の仕事のキャリアを広げることができます。仕事をせずに遊んでばかりいる人間は、一時的に楽な生活を送ることができても、人生のどこかでつまずき倒れます。そうならないように自分の生き方に責任を持ち、辿ってきた道を絶えず振り返ることで、実りある人生を歩むことができるでしょう。
 松原老子は1世紀を超える人生において様々な出来事を経験して英知を身につけ、それを元に日本社会に警鐘を鳴らされました。個人から企業、社会に至るまでいかに堅実に生きることが大切であるかを訴えて生涯を閉じられました。「人間万事塞翁が馬」、「好事魔多し」と言いますが、常に我が身を振り返り、日々努力を続ける大切さを老子は私たちに教えてくれています。

2018年10月28日