#289 沈黙の春

 今日は春らしい陽気の一日でした。所用で福岡に行ってきましたが、電車の車窓から見える風景は菜の花が満開で、線路沿いのいたる所に黄色い花が咲き乱れていました。寒い冬から抜け出して、外で謳歌したい気分になります。しかし例年の春と異なり何かが違います。そうです。人影が見えないのです。車窓から見える公園やグラウンドには人影がまばらで、子供たちが遊んでいる姿がほとんど見られないのです。毎年のこの時期には多くの人が暖かな日差しを浴びている公園に出かけ、子どもたちの歓声が聞こえてくるのですが、今年の春はその姿は見えません。まるで「沈黙の春」です。
 「沈黙の春」と言えば、60年ほど前にレチェル・カーソンが書いた小説ですが、彼女はこの小説で、農薬の残留性や生物濃縮がもたらす生態系への影響を明らかにし、社会的に大きな影響を与えたことで知られています。「沈黙の春」をブログのタイトルに引用したのは公共の場で遊ぶ子どもたちの姿が消えてしまったからです。
 確かに、電車の乗客は通常の7割程度で、座席の空席が目立ちました。また日曜日の昼間の天神はいつも買い物客でごったがえしますが、今日は客足も少なく、静かな日曜日の風景がありました。
 小中高の一斉休校が始まり1週間が経ちますが、いろんな所で弊害が目立つようです。特に子どもたちにとって悪影響を与えているのが「子ども食堂」の臨時閉店です。先日NHKで次のニュースが報道されました。
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『子ども食堂 感染拡大で中止相次ぐ 都内で260か所以上』
 新型コロナウイルスの感染拡大で人が集まるイベントなどを自粛する動きが広がる中、子どもに食事や居場所を提供する「子ども食堂」も中止が相次いでいます。都内では少なくとも260か所以上が中止していて、関係者は「開催が相当厳しい状況となっていて、行政のバックアップが求められる」と話しています。
子ども食堂は、食事を無料や低額で提供する取り組みで、子ども食堂を支援するNPOによりますと、全国3700か所余りに広がっています。
 NHKが東京・23区にある子ども食堂に新型コロナウイルスの感染拡大を受けた対応について区や社会福祉協議会などを通じて聞いたところ、少なくとも383か所のうち、7割近くにあたる265か所が今月いっぱいの中止を決めたことが分かりました。
 一方、休校で給食が無くなり食事が十分に食べられない子どももいるとして、少なくとも25か所は予定どおり開くほか、中止する代わりに弁当を配るという食堂もあり、対応は分かれています。
 NPO法人全国こども食堂支援センター「むすびえ」の湯浅誠理事長は「自治体から自粛要請があったところもあり、子ども食堂を開くのが相当難しい状況となっている。経済的に厳しい家庭だけでなく子どもの日中の居場所が必要な家庭にきめ細かな支援ができるよう行政のバックアップも必要だ」と話しています。

シングルマザー「仕事が手につかないくらいショック」
各地で相次ぐ、子ども食堂の中止は、これまで利用してきた親子に影響を及ぼし始めています。

関東地方に住む42歳の女性です。
シングルマザーとして、営業の仕事をしながら小学2年の娘を育てています。

女性は限られた生活費でやりくりするため、月の半分近く、複数の子ども食堂を利用してきました。
しかし、子ども食堂の中止が相次ぐ中、今月は、まだ利用できていないでいます。さらに、今月2日から娘が通う学校が休校となり、日中の時間から、学童クラブに通わせた結果、弁当を持たせる必要が出てきました。こうした影響で、食費は2倍に膨らんだといいます。
 女性は「1食300円ほどで、バランスのとれた食事を作るのは難しいので無くなるとつらいです。シングルマザーの世帯にとり、月に1万円違うと影響は大きくて、仕事が手につかないぐらいショックでした」と話しています。
 さらに、忙しい営業活動に加え、こうした食事の準備など、家事の負担が増したことで、唯一の楽しみだった娘と向き合う時間が減ってしまったと、不安を募らせています。
 女性は「子ども食堂によって、私の負担が減って、顔を突き合わせて話をする時間ができていたけど、それがなくなるのがつらいですね。子ども食堂が中止され、初めてこんなに気持ちが荒れるぐらい助けられていたんだと改めて実感しています」と話していました。

あえて開催頻度を増やす食堂も
 多くの子ども食堂が感染のリスクを避けようと中止を決める中、あえていつもより開催する頻度を増やした食堂もあります。
千葉県松戸市で子ども食堂を開いている高橋亮さんは、これまで週に1回、土曜日に開催していましたが、学校の臨時休校が始まったあと週3回に増やしました。
 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、開催を続けるか悩んだ時期もありましたが、学校の給食が無くなり、そのうえ子ども食堂も中止になれば利用しているひとり親や共働き家庭の中には日中、ひとりで過ごさざるをえなくなったり食事に困ったりする子どもがいると考えたからです。
 5日、平日の昼間に開いた子ども食堂では、集まった小学生から高校生まで17人に念入りに手や指の消毒をしてもらい、入り口の扉を開けっぱなしにして換気をしていました。
 子ども食堂での感染予防対策について国から具体的な指示はないため一般的に言われている感染予防の対策を可能なかぎり、徹底しているといいます。
 そして、ボランティアが宿題を見てあげたり、一緒にゲームをしたりして過ごした後、野菜や果物を多く取り入れた昼食を食べていました。
 参加した小学5年生の女の子は「お母さんは仕事で忙しいので休校が決まったときは『お昼どうしよう』と困っていました。ここでお昼食べられてお母さんが楽になれるからよかったです」と話していました。
 高橋さんは「私たちにできることは何か相当悩んだが、休校が決まり居場所のない子どもたちを受け入れなければいけないと決断した。ここに子どもたちが来ることが保護者の安心につながるので、衛生管理を徹底しながら、開催を続けたい」と話していました。

専門家「子どもたちは二重の不安」
子どもの貧困問題に詳しい、日本大学文理学部の末冨芳教授は、「子ども食堂は食事の提供だけでなく、子どもたちにとって、心理的な居場所にもなっているので、中止になると、子どもたちは二重の不安に襲われてしまう。学校給食は安全な体制で提供されているので、休校中であっても、希望者には、提供できるようにする仕組みが必要だ」と話していました。
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200307/k10012318841000.html?utm_
int=all_side_ranking-social_003)
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 学校給食や子供食堂で一日の主な栄養を取っている子どもたちにとって、休校による給食の停止や、子ども食堂の一時停止は子供の死活問題に関わります。政府は感染者対策だけでなく、子どもの命にかかわる食事の問題を一日でも早く解決してもらいたいものです。

2020年03月08日