#277 Merry Christmas!

 今日はクリスマスです。キリスト教の信者だけでなく、世界中で「聖なる日」として楽しまれています。日本では、昨日のクリスマス・イブにお祭り騒ぎで楽しんでいる人が多く見られましたが、クリスマスの本当の意味を分かっている人がどれだけいるでしょうか。本日はクリスマスの日にちなんで、ドン・ボスコ社の「知ってる?クリスマス」より物語を1つ紹介します。
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フォルトナートのクリスマス
グイド・ゴッツァーノ作

 空のかなたを見つめながら、イエスが白く長い衣を着て歩いていく。やがて、イエスはその衣を脱ぎ捨てる。
 権力のもとで搾取され続ける人々、泣き叫ぶ子どもたち、
日々の生活にあえぐ人々の涙を拭うために……。

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 遠い昔のこと。フォルトナートという貧しい男が憔悴しきってうずくまっていた。すると、「なぜ、そんなに悲しい顔をしているのか」と見知らぬ男が声をかけた。
 「家にはお腹を空かせた子どもが五人。でも、私にはお金も仕事もなく、子どもたちに食べさせるものもありません。どうしたらいいのか。」
 「じゃあ、私の仕事をしてもらえないかね。明日の朝早くヒースの野原に行って、枯れたヒースを鎌で刈ってほしい。」
 フォルトナートは、あすはクリスマス、一年のうちでいちばん大事な日に朝から仕事なんてと考えたが、そのとき、空腹で待つ子どもたちの泣き声が聞こえたような気がした。
 「おっしゃるとおりにします。子どもたちと神さまのために。」
 「よろしい。それでは明日の夕方に賃金を払おう。」
 そう言って、男は姿を消した。
 翌朝、フォルトナートは半信半疑のうちに鎌を取り、野原に行って枯れたヒースを刈り始めた。遠くから教会の鐘の音が聞こえた。
 「ああ、神さま、こんな日にミサにも行かず働くことをゆるしてください。」
彼は祈りながら仕事を続けた。ヒースの束は山のようになっていった。
やがて太陽が地平線に沈むころ、彼は鎌を置き、石の上に腰掛けた。突然ヒースの束が燃え始めた。火は、どんどん広がった。彼は火を消そうと必死になったが、あっという間にすべてが灰になってしまった。
「ああ、一日の働きがすべて無駄になってしまった。ご降誕の聖なる日を汚した天罰だ。私は間違っていた。ご降誕の日を大切にしなかった。」
そのとき、「失望してはいけない。」という声が聞こえ、フォルトナートが振り向くと、昨日の男が立っていた。
 「心配するな。あなたの仕事に十分な支払いをしよう。家に帰ると驚くものが待っている。受け取ったものを大事にしてほしい。そしてこれからあなたを訪れる不幸な人たちに門を閉ざさないように。」
 フォルトナートが急いで戻ると、彼の家は壮麗な城になっていた。子どもたちがうれしそうに彼を迎え、中には豪華なクリスマスの食卓が用意されていた。その日から、フォルトナートの生活は一変した。畑を買い、財産を増やしていった。
 初めのうち、彼は恩人との約束を忠実に守った。彼を訪れる人には慰めの言葉やお金を惜しむことなく分け与えた。ところが、彼は次第に約束を忘れ、いつの間にか周囲にはへつらう者が集まり、彼自身も傲慢になっていった。
 クリスマスがやってきた。彼はその日、盛大な宴会を開いて町中の金持ちや有力者を招待した。宴会が始まると一人のみすぼらしい老人がやって来て、「どうかこの哀れな者を助けてください。」と哀願した。召し使いたちが彼を追い返そうとしていると、その様子を見たフォルトナートが「大切なクリスマスの宴会だ。彼を一歩も中へ入れるな。」と怒り狂って叫んだ。老人は首を振りながら立ち去っていった。
 しばらくすると、四頭立ての馬車に乗って、立派な身なりの人物がやってきた。急いで迎えに出たフォルトナートが「どうぞお入りください。」と言うと、その人は「ありがとう。しかし、私はあなたの家には入らない。つい先ほどこの家を訪ねたとき、あなたは私を追い返したから。あなたは一年前に話したことをもう忘れてしまったのか。たった一年間の豊かな生活が、あんなに敬虔だったあなたを、このような傲慢な人間にしてしまったのか。」と言って去っていった。
 気がつくと壮麗な城も、召し使いも、パーティーのごちそうも、すべて消えていた。クリスマスの夜、貧しい家の中ではお腹を空かせた子どもたちが泣いている。しかし、すべてを失ったと思ったフォルトナートの心の奥底から、熱いものがよみがえってきた。彼は決心した、「ほんとうの救いの道を歩こう」と。

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 無我夢中で働き、昇進を果たし、成功を得たと思ったそのとき、ある種のほろ苦さを覚えることがある。衣を脱ぎ捨てたイエスの真意がわかるようになった今、痛みを伴いながら遅すぎる回心を始める……。

(注)回心 キリスト教で、過去の罪や不信の態度を悔い改め、神の道に心を向けること。
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 クリスマスイブの大騒ぎも結構ですが、クリスマスの日にはその意義を考えながら一日過ごすことも大切です。年末になると多くの児童養護施設に匿名で様々な贈り物が届けられます。これもイエス様の意にかなう行為です。世の中のすべての子どもたちに、ささやかな愛と幸せが与えられますように。Merry Christmas!

2019年12月25日