#575 早春賦

 今月もすでに半分過ぎ去ってしまいました。2週間後は暦の上では3月になります。3月1日は国内の多くの高等学校で卒業式が行われます。季節は早くも春を告げる頃になりました。しかしながら明日からはまた次の寒波がやってくると報じられています。振り返れば今年の冬は最後まで厳冬でした。本当に暖かな春がやって来るのでしょうか。いぶかしがる今日この頃です。
 さて、この時期になるとよく耳にするのが「早春賦」という唱歌です。この歌の歌詞は次のようになっています。(「日本の童謡・唱歌をいつくしむ」東邦出版より引用)
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『早春賦』 詞 吉丸一昌  曲 中田 章
春は名のみの風の寒さや
谷の鶯 歌は思えど
時にあらずと声も立てず
時にあらずと声も立てず

氷解け去り葦は角(つの)ぐむ
さては時ぞと思うあやにく
今日も昨日も雪の空
l今日も昨日も雪の空

春と聞かねば知らでありしを
聞けばせかるる胸の思いを
いかにせよとの この頃か
いかにせよとの この頃か

この歌には格調高い美しい日本語の響きがいたるところで感じられますが、現代日本語では使わない表現がありますので、歌詞の解釈をつけておきます。

暦は春だが、それは名だけで風が冷たい
鶯は(もう春なので)谷から出て
美しくさえずろうと思うものの
(寒いので)まだその時ではないと思い、声を出さない

すでに氷は解け、葦は芽が出ている
さあ、もう春だと思ってはみたものの
昨日も今日も雪の舞う空だ

暦の上では春だと聞かなかったら
それを意識せずにすんだのに
聞いたばかりに、早く春らしくなれと
思わずにいられないこの心を
どうしろというのだ、この季節は

「早春賦」を聞きたい方は下記のYoutubeサイトにアクセスしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=-2k_PCPcvKY
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註:中田章は,明治から昭和初期にかけて活動した日本の作曲家,オルガニストです。彼は明治19年に東京で生まれ,東京音楽学校で学んだのち,この学校でオルガンや音楽理論を教えました。作曲家としては,春を待ちわびる思いを歌った唱歌「早春賦(そうしゅんふ)」によってたいへん有名になりました。この曲は,大正初期に,同じ東京音楽学校で国語を教えていた吉丸一昌(よしまるかずまさ)が詩を書き,同僚だった中田章に作曲を依頼したことによって生まれたものです。また彼は,「夏の思い出」の作曲者,中田喜直よしなおの父でもあります。

 明治・大正時代に作られた日本の童謡・唱歌には現代では使用されていない日本語表現が出てきますが、本当に美しい日本語の響きを持っています。曲の美しさと相まって日本人の心の原点を表しています。このような美しい日本の歌をいつまでも歌い継いで行きたいものです。
 この早春賦の歌詞のように、今年は春が来るまでもう少し時間がかかりそうです。去り行く冬を惜しみながら、暖かな春の訪れを楽しみにしたいと思います。

2025年02月16日