#220 ささやかな贈り物

 今日は2月10日です。つい先日新年を迎えたと思っておりましたが、もうすでに2月も上旬が終わる頃となっています。さすがに自然は嘘をつかず、福岡の日の出時間が現在7時8分となっています。一番遅い日の出が7時23分(1月16日頃)ですので、すでに15分ほど早くなっていることになります。また一番早い日没が17時10分(12月1日頃)ですが、現在は17時59分頃ですので約50分ほど日が長くなっています。春に向かってお日様もパワーアップしているようです。
 さて今日のテーマは「ささやかな贈り物」です。以前同じような内容を書いたと思いますが、自分のブログを読み返すことをしませんので、何回目のブログか思い出せません(笑)。その贈り物とは毎年この時期に送っていただいております株式会社クマヒラの小冊子「抜粋のつづり」ことです。この冊子は毎年無料で発行されており、全国各地の熊平製作所の支店や営業所で入手することができます。この冊子との出会いはおよそ10年ほど前になりますが、まだ現役の教員として働いていた時に職員室の片隅に置いてあったものを目にしたことです。ページをめくると様々な珠玉の名文が散りばめられており、その出典は全国で販売されている様々な本屋や、雑誌、新聞や機関誌などから著者の許可を得て掲載されています。この冊子を目にして以来、読者になった次第です。この冊子はあくまでも無料配布ですが、私は郵送費を払い毎年この時期に送ってもらっています。今年のこの冊子の中に次のような添え書きが挿んであります。(一部引用)

拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
  さて、毎年寄贈させていただいております「抜粋のつづり その七十八」が出来上がりましたので、
  お送り申し上げます。
   「抜粋のつづり」は社会への感謝・報恩の思いから昭和六年に創刊。著者、新聞・出版各社の
  ご理解を得て、戦中・戦後の混乱期を除き毎年刊行し、百十五ヵ国の日本大使館や総領事館、全国
  の各種団体、企業、個人に四十五万部を無料配布させていただいております。
  今年も本日、全国いっせいに配布いたします。広くご高覧賜れば幸いに存じます。なにとぞよろしく
  お願い申し上げます。
   末筆ですが、皆様のご健勝、ご発展をお祈り申し上げます。    敬具

この冊子を作成するのに多額の費用がかかっていることは明らかです。この会社の善行に対し、まさに頭が下がる思いです。今日は最新版「抜粋のつづり その七十八」から次の文を抜粋したいと思います。

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「叶わなかった高校進学」 山本孝弘
 肉体は単なる乗り物であって、本来の自分は魂である。子どもの頃から私はそう感じていました。先日、五年前のみやちゅうを読み返していると、スピリチャル・カウンセラーである神光幸子さんの記事を見つけました。記事を読みながらあらためて「魂」という真理が心に落ちました。
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 七年前に肉体を離れた父の魂は、今どこにあるのか。
 生き方が下手で、反面教師を絵に描いたような父でした。母に迷惑を掛け続け、それでも父なりに生き抜いた73年間は、彼にしかわからない思いの中で日々苦しくもがいていたこともあったのではないかと思います。
 戦後の貧しい時代、5人の兄弟の次男として生まれた父は小学生の時に父親を亡くしました。1つ違いの長男と二人、家計を助けるために中学を出てすぐ工場で働きました。父のお通夜の時、末っ子の叔母が涙を流しながら言っていたことを、私は一生忘れないと思います。
 「兄ちゃんは頭がよかった。中学3年の時、先生が家に何度も来て『何とか高校に通わせてやってほしい』と母ちゃんを説得してた。でもその度に兄ちゃんは『幼い弟や妹のために僕は働きます。高校に興味はありません。』って言ったんだよ。兄ちゃんありがとう…」
              *
 私の兄が高校受験をした日は、家族の中で父だけがそわそわしていました。そして合格したと分かった時、父はとても興奮し、「握手しよう」と兄に手を差し出しました。でも思春期の息子というものは素直ではありません。
 「あんな高校、名前を書けば誰だって入れるんだ!」
 そう言い放った兄に父は怒るでもなく、「そんなことを言うな」と、ただ悲しそうに呟きました。そのことを兄が覚えているとは思っていませんでした。ですが父が亡くなった日の晩、兄は言いました。
 「あの人にとって高校進学っていうのは夢だったんだよな。あんなことを言わなきゃよかった。握手すればよかった…」
              *
 私が結婚する前、妻の実家に両親を連れてあいさつに行った時はとても不安でした。父が何がしかの失態を演じるのではないかと思ったのです。しかし、父は普段とは全く違っていました。その時の父の話は本当に面白く、私を含めみんな大笑いしました。そんな父は見たことがなく、私は驚きました。「自分はこの人のことを何も知らないんだな」と思いました。
 結局、父とお酒を飲む機会はありませんでした。今いきなり目の前に父が現れても全く驚かないので、一緒に飲んでみたい気もします。もうすぐ7回目の命日がやってきます。
 (やまもと たかひろ=みやざき中央新聞社中部特派員
                  みやざき中央新聞「取材ノート」30年4月9日)
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 上記のお父さんのように昔の父親は頑固一徹でした。「寺内貫太郎一家」の父親のように無口で、口下手で自分の感情を素直に表現できない父親が多くいたものです。私の父は大正生まれで92歳の人生を全うしましたが、この記事の父親と似通った点がたくさんあり、自分の父親のことが書かれているようでした。
 今では誰もが高校に行く時代ですが、本当に勉強の大切さを理解している高校生がどれだけいるでしょうか。「何となく親や周囲に勧められて高校までは出ておかないと」と思っている高校生が多いことと思います。私は現在電車で明光学園に通勤していますが、電車の中で様々な高校に通う生徒達のほとんどがスマホで遊んでいます。定期試験期間中を除いて勉強している生徒はほとんどいません。この一文をその生徒たちに読ませてやりたい気持ちになります。勉学の大切さに気づいている生徒は幸いです。

2019年02月10日